01.どんな病気?
多発性骨髄腫は形質細胞の悪性腫瘍です。形質細胞とはリンパ球(B細胞)がさらに分化してできた細胞で、抗体(ガンマグロブリン)を産生する働きがあります。
抗体は体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物(抗原)に結合して生体内から除去する蛋白質で、1つの抗体は1種類の抗原に特異的に結合します。
抗体にはIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つのタイプがありますが、1つの形質細胞はいずれか1種類の抗体のみを作ります。
多発性骨髄腫でもその性質は保持され、腫瘍細胞からは1種類の抗体のみが多量に産生されますが、その抗体をM蛋白と呼びます。
M蛋白は、特に腎臓の働きを妨げて、しばしば腎障害を引き起こします。
さらに骨髄腫細胞そのものが骨髄中で造血を阻害して貧血を引き起こし、また、破骨細胞(骨を溶かして吸収する細胞)を活性化することで、骨が脆くなって病的骨折を引き起こします。
高カルシウム血症(hyperCalcemia)、腎障害(Renal dysfunction)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone disease)という多発性骨髄腫に特徴的な4つの症状は、それぞれの頭文字をとって"CRAB症状"と呼ばれます。
血液検査ではヘモグロビン濃度低下、クレアチニン値上昇、血清カルシウム値上昇、M蛋白(IgG、IgAなど)の著明な上昇、M蛋白以外のガンマグロブリンの減少(抑制)などがみられます。
また、骨のX線検査では、骨融解を起こした部位が黒く抜けて見えるため、打ち抜き像(punched-out lesion)と呼ばれます。
02.治療について
多発性骨髄腫の治療は、患者さんの年齢や合併症の有無で方針が異なります。年齢が65歳以下で大きな合併症がない場合は、抗がん剤を3~4種類組み合わせた初期治療(ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメサゾン併用療法など)を約半年程度実施した後、自家造血幹細胞移植(ASCT)併用超大量化学療法が実施されます。ASCT後は無治療で経過観察される場合もありますが、最近では再発防止のために、維持療法として少量の内服抗がん剤を継続するケースが多くなっています(レナリドミド維持療法、イキザゾミブ維持療法など)。
一方、70歳以上、もしくは、65歳以下でも大きな合併症のためASCTは困難と判断された場合は、抗がん剤を3~4種類組み合わせた初期治療(ダラツムマブ、レナリドミド、デキサメサゾン併用療法など)が実施されます。
その後は同じ治療を継続する、あるいは、より治療の強度を弱めた維持療法(レナリドミド維持療法、イキザゾミブ維持療法など)に切り替えるなどの選択肢もあります。
もし、これらの治療の過程で再発をきたした場合は、他の薬剤に切り替えた救援療法が実施されます。
わが国で多発性骨髄腫の治療に使われる薬剤には、プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキザゾミブ)、免疫調節薬(レナリドミド、ポマリドミド、サリドマイド)、抗体薬(ダラツムマブ、イサツキシマブ、エロツズマブ)があり、さらに最近では二重特異性抗体(エルラナタマブ)も登場しました。サリドマイド以外は21世紀に入ってから続々と登場したため「新薬」と呼ばれており、新薬によって骨髄腫の治療成績は飛躍的に向上しています。
03.療養上の注意点
新薬の登場により、多くの患者さんにとって多発性骨髄腫は死に直結する病気ではなくなりました。
しかし、現時点では、治療を中止しても大丈夫というところまで医療は到達できておらず、原則として、治療は長期にわたる(無期限の)継続が必要と考えられています。
治療は「長丁場」になるという前提に立つと、比較的軽微な副作用(例えばレナリドミドによる倦怠感や味覚障害)も無視できないですし、通院の便、経済的負担、ご家族の付き添いなどについても真剣に向き合う必要が出てきます。一人で抱え込まず、担当医や医療スタッフ、ご家族、職場の仲間、患者会、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーらとも積極的に相談していくことをお勧めします。