01.どんな病気?
慢性骨髄性白血病(CML)は血液中の白血球(好中球、好塩基球、幼弱血球など)が著明に増加する骨増殖性腫瘍(MPN)の仲間です(MPNについては前項参照)。
CMLは当初は無症状で、健診などで偶然発見されるケースが多いのですが、もし放置すれば、倦怠感、発熱、体重減少、皮膚のかゆみ、脾腫による腹部膨満感などの症状が悪化していき、最終的には急性白血病に移行(急性転化)して致死的な経過をたどります。
CMLは造血幹細胞由来の腫瘍で、フィラデルフィア染色体(Ph染色体)と呼ばれる、9番染色体と22番染色体の一部が相互転座する(入れ替わる)という特徴的な遺伝子変異がみられます。
Ph染色体上には、9番染色体由来のABL1遺伝子と22番染色体由来のBCR遺伝子が融合した異常なキメラ遺伝子があり、そこから細胞を無制限に増殖させるBCR::ABL1キメラ蛋白が作られます(キメラとは異なる由来のものが混じっている状態を指します)。
02.治療について
腫瘍細胞から産生されるBCR::ABL1キメラ蛋白をピンポイントで阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が治療の主役となります。
現在、TKIにはイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ(タシグナ®)、ボスチニブ(ボシュリフ®)、ポナチニブ(アイクルシグ®)、アシミニブ(セムブリックス®)の6種類があります。
初めて治療を開始する場合は、前4者のいずれかが使われ、効果が不十分か、副作用で継続できない場合は、後2者も含めた他の薬剤に切り替えます。
万一、いずれのTKIも効果がない、あるいは副作用のため服用できない場合は、インターフェロンや同種造血幹細胞移植など他の治療方法が検討されます。
03.治療効果の判定(BCR::ABL1IS遺伝子定量法)
血液の白血球中にがん細胞(CML細胞)が何%含まれているかを、遺伝子増幅法(BCR::ABL1IS)(ISは国際標準指標の略)で調べることができます。
この指標を参考に治療が順調に進んでいるかを判定します。
BCR::ABLISによる治療効果の判定基準

04.TKIによる治療の中止について
CMLに対する治療は原則として生涯にわたって継続されます。しかし、重い副作用がある、妊娠を希望される、経済的な負担が重すぎるなどの様々な理由で中止を希望される患者さんがおられることも事実です。
最近では、一定の条件を満たした状態でTKIを中止し、無治療で深い寛解を維持できる状態(無治療寛解〔TFR:Treatment-free remission〕)を確保することが、新たな治療目標として捉えられつつあります。
当院では、最新の研究成果やエキスパートの先生方のご意見をもとに、TKIの中止について以下のように考えています。
- 1)差し迫っているわけではないが、妊娠希望、経済的負担が重い、薬を飲み続けるのが大変などの理由でTKI中止を強く希望される場合
✓ 3年以上TKIによる治療を受けた患者さんの中で、1)BCR::ABL1ISにて、MR4.5以上(BCR::ABL1IS ≦ 0.0032%)の深い完解が2年以上維持された後にTKIを中止した場合のTFR達成率は40-45%、また、5年以上維持された後に中止した場合の達成率は80%以上という報告があります。このように、TFRを成功させるためには、治療にて十分に深い完解が長期にわたって続いていることが重要です。
✓ TKI中止後もDMR(BCR::ABL1IS ≦ 0.01%)を維持することが目標となります。もし、DMRを喪失した場合は早急に治療再開を検討する必要があります。
✓ TKIを中止した場合は中止後早期ほど再発する可能性が高いため、少なくとも最初の6か月は毎月、その後の6か月は2か月毎にBCR::ABL1IS を測定する必要があります。決して医師に無断で薬を中止しないようにしてください。
- 2)差し迫った事情によりTKI中止を希望せざるを得ない場合(副作用のため生活の維持が困難、妊娠が判明しリスクを覚悟で継続したいなど)
✓ TKI中止後、少なくともMR 3.0以上(BCR::ABL1IS ≦ 0.1%)を維持することが目標となります(この範囲だと急性転化を引き起こす可能性は低いとされます)。
✓ TKIは催奇形性が報告されているため妊娠中の服用は禁忌です。そこで、妊娠中の急性転化を避けるために、TKIをインターフェロンに変更して、少なくともMR3.0以上の寛解を維持するようにします。