造血器腫瘍についてなら大阪の血液内科太田クリニック

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造血器腫瘍について

01.悪性腫瘍(がん)とは

がんは、身体を構成する正常な細胞から発生します。なんらかの原因(発がん物質や放射線など)により正常細胞の遺伝子に"傷"(遺伝子変異)が入ることで、その細胞の働きが異常となり、規律なく増殖して腫瘤(こぶ)を形成したものを"腫瘍"といいます。
この腫瘍が周囲の健康な組織を破壊したり、血管やリンパ管を介して遠方の臓器に転移したりして生命を脅かす性質を持った場合は"悪性腫瘍"と呼ばれます。

02.造血器腫瘍とは?

すべての血球(赤血球、白血球、血小板)は造血幹細胞から作られますが、造血幹細胞から最終的な血球が作られるまでの様々な分化過程の細胞から発生した腫瘍が造血器腫瘍です。
ほとんどの造血器腫瘍は放置すれば生命を脅かす悪性腫瘍としの性質を有するため、注意深い経過観察や治療が必要となります。

03.造血器腫瘍の分類

造血器腫瘍は、腫瘍細胞がどの方向の分化傾向を持つかによって、骨髄系とリンパ系腫瘍に、また、細胞の分化度(成熟度)に応じて未分化型腫瘍と分化型腫瘍に大別されます(下表参照)。

造血器腫瘍の分類
  • 未分化型腫瘍(急性白血病)

    分化度が低い未熟な段階の腫瘍細胞(芽球)が均一に増殖するものが急性白血病です。
    急性白血病は、その分化の方向性によって急性白骨髄性血病(AML)と急性リンパ性白血病(ALL)に分類されますが、いずれも急激な経過をたどるため、早期発見と治療介入が必要となります。

  • 骨髄系の分化型腫瘍(骨髄増殖性腫瘍と骨髄異形成症候群)

    代表的な骨髄系の分化型腫瘍には骨髄増殖性腫瘍(MPN)と骨髄異形成症候群(MDS)があります。MPNには慢性骨髄性白血病(CML)、真性多血症(PV)、本態性血小板血症(ET)、骨髄線維症(MF)などが含まれます。
    MPNは造血幹細胞の遺伝子変異によって引き起こされる造血器腫瘍ですが、腫瘍化した造血幹細胞は正常造血幹細胞と同じく血球(白血球、赤血球、血小板)を産生して身体を守ることができるため患者さんは当初無症状で、健診などで偶然発見されることが殆どです。
    ただ、MPNでの血球の作られ方はバランスが悪く、例えばCMLでは好中球が、PVでは赤血球が、ETでは血小板が特に過剰に産生されます。
    一方、MDSもMPNと同じく造血幹細胞由来の腫瘍で各種血球を産生することができますが、MPNと異なり各血球は少なくなり、血球の形態や働きなどに異常が見られることが特徴です。

  • リンパ系の成熟型腫瘍(悪性リンパ腫と多発性骨髄腫)

    リンパ系の成熟型腫瘍の代表は悪性リンパ腫と多発性骨髄腫です。
    悪性リンパ腫は血液内科領域で最も多くみられるリンパ系前駆細胞由来の腫瘍です。
    腫瘍細胞は主としてリンパ組織(リンパ節や脾臓など)で増殖してリンパ節の腫れや脾腫などをきたします。
    もし、多くの腫瘍細胞が最初から血液中を巡る場合は、リンパ腫ではなく白血病に分類されます(慢性リンパ性白血病や成人T細胞白血病/リンパ腫など)。
    多発性骨髄腫は、抗体(体内に侵入した細菌やウイルスなどと結合して排除する蛋白質)を産生する形質細胞が腫瘍化したもので、形質細胞の性質を反映した特徴的な症状が出現します。

04.造血器腫瘍の治療

  • 細胞障害性抗がん薬

    20世紀に開発が進んだ従来型の抗がん剤は細胞障害性抗がん剤と呼ばれます。細胞の増殖を阻害する作用によって、造血器腫瘍には大きな効果を発揮します。
    その反面、細胞障害性抗がん薬は正常細胞の分裂も阻害するため、造血抑制(白血球減少等)、脱毛、嘔吐、下痢等の副作用も強く発現します。

  • 分子標的治療薬

    がん細胞に特異的に発現する遺伝子や蛋白質を標的にしてがん細胞の増殖を抑える治療薬で、近年、極めて多くの有効な薬剤が登場してきています。
    分子標的治療薬は、細胞障害性抗がん薬のような脱毛や嘔吐のような副作用が少ない反面、それぞれの薬剤に特有で、特殊な副作用が発現することがあるため注意が必要です。

  • 放射線治療

    造血器腫瘍は放射線治療に対する感受性が高い性質を有します。しかし白血病、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成症候群等では、発症時から腫瘍細胞が血液に混入して全身を巡っているため、局所療法である放射線治療は適応となりません。
    悪性リンパ腫の場合も、多数のリンパ節に速やかに広がっていく性質があるため、放射線治療単独で治療することはほぼありません。
    造血器腫瘍で放射線治療が考慮されるのは、抗がん剤抵抗性の圧迫や閉塞を引き起こすような腫瘤がある場合、腫瘍細胞が脳や脊髄に浸潤して緊急を要する場合、悪性リンパ腫のステージIで放射線治療を併用すれば化学療法を減量できると考えられる場合などです。
    また、同種造血幹細胞移植の際には、前処置として全身放射線治療を併用することがあります。

  • 造血幹細胞移植

    強力な化学療法や全身放射線治療に引き続いて造血幹細胞を点滴によって移植する治療です。移植する造血幹細胞が自分自身の細胞である場合は自家造血幹細胞移植(ASCT)と呼ばれ、予後不良型の悪性リンパ腫や多発性骨髄腫で実施されます。
    ASCTでは、あらかじめ自分自身の造血幹細胞を血液中から機械で採取して凍結保存します。これは、造血幹細胞を抗がん剤の副作用から守る "非難"のためです。
    その後、患者さんに大量の抗がん剤を投与し、2日くらい経過してから造血幹細胞を解凍して輸注します。
    このASCTによって、大量抗がん剤による白血球減少などの致死的な副作用が回避され、より安全な治療が可能となります。
    一方、輸注される造血幹細胞が他人由来である場合は同種造血幹細胞移植といいます。
    この場合、造血幹細胞の提供者は兄弟、親、子供、他人(骨髄バンクや臍帯血バンク登録者)など様々なケースがあります。
    同種造血幹細胞移植の場合は、ASCTと異なって、移植されたドナーの免疫細胞が、移植を受けた患者さんの身体を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)という特殊な副作用が出現します。
    しかし、一方では提供者の免疫細胞が患者さんのがん細胞(残存白血病細胞など)を他人として攻撃するため、免疫療法として強力な治療効果が期待されます。
    これは移植片対白血病(GVL)効果と呼ばれています。

  • CAR-T細胞療法

    通常の薬物療法で治癒させることが困難な場合に実施される特殊な免疫療法です。
    患者さん自身のT細胞を取り出し、その遺伝子を組み替えてキメラ抗原受容体(CAR)を細胞の表面に発現するように改変します。
    CAR を発現するようになったT細胞(CAR-T細胞)は、がん細胞を認識して破壊する能力が飛躍的に高くなるため、難治性の造血器腫瘍にも大きな効果が期待できます。

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