01.どんな病気?
鉄分の不足によって、十分なヘモグロビン(赤血球中の酸素運搬を担う蛋白質)が作られなくなることによって起こる貧血です。
鉄分が不足する原因は、1)慢性的な出血(月経、胃腸のがんや潰瘍、痔など)、2)食事からの鉄の摂取不足(肉、鳥、魚など動物性食品の摂取不良)、3)妊娠や激しいスポーツなどによる鉄の需要増加などが考えられます。中でも鉄欠乏性貧血の原因として圧倒的に多いのは女性の過多月経です。閉経前の日本人女性の場合、約4人に1人が鉄欠乏性貧血であるといわれます。
月経過多がある場合、貧血を何度治療してもすぐに再発してしまうため、面倒になって放置する方もおられます。
ただ、貧血を放置すると、息切れや倦怠感が続いて生活の質や仕事・育児などのパフォーマンスが大きく低下しかねません。
一方、男性や閉経後の女性に鉄欠乏性貧血は稀ですが、胃や大腸のがんや潰瘍が背景にあることもあるので、放置せずに胃カメラや大腸カメラを受けることが重要です。
02.治療について
鉄剤の内服治療が基本です。
ただ鉄剤には吐き気や便秘の副作用が多いので、服用は基本的に夕食後か寝る前にして、それでもつらい場合は薬の減量、鉄の含有量が少ない小児用シロップ製剤への変更、鉄の注射剤への変更など、患者さんそれぞれに合った方法を選んでいきます。
03.貧血が改善した後の方針
月経過多が原因の場合、食事で摂取する鉄より月経で失う鉄が上回る、鉄の「赤字」状態が続くため、治療をやめると半年~1年くらいで再び貧血が進行することがほとんどです。
このため、当院では、治療で貧血が改善した後も、少量の鉄剤内服(週に2~3日の服用など)を継続して再び貧血が進まないようにすることをお勧めしています。
また、食事も大切です。食材に含まれる鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の形があります。
ヘム鉄は肉や鳥、魚などの動物性食品に含まれており、腸からの吸収効率が高いため鉄の補給に効果的です。
一方、非ヘム鉄は野菜や海藻などの植物性食品に含まれていて、ヘム鉄と比べて吸収効率が低い(約10分の1)ため、よほど大量に摂取しないと効果が見込めません。
このように、鉄の補給のためには動物性食品の摂取がとても重要となります。
ただ、肉類の取り過ぎは高脂血症や肥満の原因になりかねないので、鳥・魚を中心にすることや「ヘム鉄」含有のサプリの併用などもお勧めです。